ロンドン五輪まであと1カ月。東京五輪以降すべての夏季大会を現地観戦してきた「オリンピックおじさん」こと山田直稔さんが、1996年のアトランタ五輪でいちばん印象に残っているのは、野球の日本対キューバの決勝戦だ。
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この五輪の思い出といえば、前回のバルセロナから正式競技に採用された野球だね。当時の日本はアマチュア選手だけでチームを作ってたんだけど、予選リーグから大苦戦。初戦に勝った後は、キューバ、豪州、米国に3連敗。だけどそこから3連勝して、何とか決勝トーナメントに勝ち上がったんだ。
準決勝は格上の米国が相手だったけれど、打線が爆発して11-2で圧勝。勢いに乗って、「世界最強」キューバとの決勝に臨んだんだ。
当日、私は別の競技から「転戦」して球場へ行った。そしたらすでに3回裏で0-6の劣勢。連投になった先発の杉浦正則さんが1回に連続ホームランを打たれちゃって......。
あちゃー、と思ったけど、4回表に1点返して、5回表も1点を返してさらに満塁になった。次のバッターは日本の4番・松中信彦さん(現ソフトバンク)。打席に向かう時に、
「ホームランしかないよ。ホームランしか。向こうは焦ってる。失投を待てっ」
って声をかけた。私の声は大きいから、スタンドじゅうに聞こえてるんだ。
カウント1-1から、外角の変化球を振り抜く。打球は左へ。伸びて、伸びて、入ったーーーーーーーー。
近くに座っていた解説者の原辰徳さん(現巨人監督)が、声をかけてくれた。
「すごいねえ。団長の言う通りになるんだね」
ほんと、自分の言った通りになると、応援のしがいもあるってもんだね。
※週刊朝日 2012年7月6日号