「美術品としての美しさがありつつ、ある時は政治の道具にされたり、譲り渡されたり……刀剣に心があるのなら、どんな思いで武将たちを見ていたのか、『刀剣男士』として表現できるのでは、と考えました」
実は、ゲームではストーリーは最低限で、キャラクターの設定も自己紹介や各種セリフから読み取れるのみとなる。また、女性向けコンテンツとしてよく目にする恋愛的要素もない。単調に思えるが、ここがヒットのカギ。わずかにしか語られないからこそ、プレーヤーは想像を広げて楽しむことができる。
「正解をストレートに言うのではなく、ヒントを置いていく作り方をしたい、と当初から打ち合わせていました」(小坂さん)
配信後まもなく制作会社などから数十本近いメディアミックスの提案を受けた。ただ、難しいのは「自分の想像と違う」と従来ファンからの反発を招きかねない点だ。
そこで思いついたのが「それぞれの本丸」という考え方だ。刀剣男士を育てる拠点となる「本丸」は、プレーヤーの数だけ存在し、それぞれで別の想像の世界があっていい。それと同様にアニメや舞台にも、それぞれ別の「本丸」が存在してもいいのでは、という考え方だ。
「“答え合わせ”ではなく、お隣の本丸を見て楽しむ感覚で、客観的に見てもらえると思ったんです」(同)
先の刀剣展示も全国で50回以上開催され、刀剣の復元や地域振興にもつながっている。ロケ地めぐりとは違い、ある種間接的な「ゆかりの地」をめぐる刀剣乱舞の聖地巡礼。コンテンツツーリズムに詳しい、近畿大学の岡本健准教授が言う。
「刀剣乱舞の聖地巡礼はコンテンツが文化資源に新たな価値を与え、重要な資源が守られる好例といえます」
ブームを超え一つの文化といえるまでに成熟した証しだ。(ライター・市岡ひかり)
※AERA 2020年3月16日号より抜粋