けっこう痛いのは、原稿を送ったのとは別の小説誌に集中連載しているコンゲーム小説の書きかけ原稿だ。三日間で書いた十五枚を失った。このことをMさんにいうと、データ復旧の方策を考えてくれた。ひとつは復旧の専門業者に依頼すること。ひとつは復旧のためのソフトを購入すること。
近くの電器量販店にソフトを買いに行ったが、パソコンの不具合ならともかく、本体が壊れているのでは利用できないだろう、といわれた。
データ復旧業者に電話をしたが、なにせパソコンが古いからデータの取り出しは確約できない、現物を調べて判断したい、といわれたから東京まで宅配便で送って見積もりをもらうことにした。
コンゲーム小説を書いている小説誌の担当編集者にも電話をして、これこれの事情で締め切りを一カ月先延ばしにしてください、と伝えた。編集者は呆(あき)れただろうが、わたしの怠慢による失態を責めはせず、了承してくれた。
Mさんは新しいパソコンにUSBメモリーを差して、日々のわたしの原稿を自動バックアップするようセットしてくれた。
よめはんにも状況を報告した。「みなさんに迷惑かけて、反省してるの」というから、「してます」といった。
──というようなことで、これまで書いてきた『出たとこ勝負』のデータはすべて消滅したが、一週ごとに完結するコラムだから大きな影響はない。いまもこうしてこの原稿を書いた。
※週刊朝日 2020年4月10日号