東京五輪・パラリンピックの延期が決まったとはいえ、課題は山積だ。中でも深刻なのは選手たちへの影響だ。延期によるパフォーマンス調整はもちろん、代表選考の行方も注目される。AERA2020年4月6日号は、アスリートたちの心境に迫った。
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最も直接的な影響を受けるのは、今夏に照準を合わせてトレーニングを積んできた選手たちだ。計画の再設定を迫られ、代表選手の選考にも大きな影響が及んでいる。
1年の延期は、選手にとってどのようなことなのか。
「これまで1年かけて丹念に並べてきたドミノがばたばたと倒れるような徒労感がある」
こう表現するのは、陸上の世界選手権男子400メートルハードル銅メダリストで、五輪に3大会連続で出場した為末大さん(41)だ。
「選手たちは五輪本番にピークを合わせるために、五輪から逆算して年単位で準備してきました。それをもう一度一からやり直すことになるため、気持ちが切れてしまう選手も出てくるのではないでしょうか」
為末さんは「アスリートの本当のピークは2、3年で終わる」と指摘し、1年後に同じパフォーマンスを維持することはとても難しいと言う。視覚障害マラソンで代表への推薦が内定している堀越信司(31)=NTT西日本=もこう話す。
「30代の自分にとって1年という時間は重い。年を取りながらパフォーマンスを上げていくことは簡単なことではない」
一方で、延期を「より強くなる時間ができた」と前向きにとらえてもいるという。
「時間の猶予ができ、本番に向けてプランの立て直しもできるというメリットもある。やるしかないですね」(堀越)
パラアスリートには、進行性の難病を持つ人もいる。東京パラリンピックでボッチャの医療責任者を務める目白大学の佐藤広之教授(リハビリテーション医学)はこう指摘する。
「パラリンピックのクラス分けでは障害が固定されていることが原則だが、進行性の病気で体力やパフォーマンスが低下する選手が出る可能性もある」