「きっかけは、6年前に国立民族学博物館とともに企画した『イメージの力』展という展覧会でした」
本来は博物館にある資料を美術館に展示しただけで、その見え方ががらりと変わった。展覧会には観客からも大きな反響が寄せられたという。
「これをきっかけに、普段はやらない何か新しいことをやってみようと考えるようになりました。やがて日本の古い美術と現代美術の組み合わせというアイデアに巡り合ったんです」
古典と現代を結ぶ展覧会で、まず決まったのは現代アーティスト8人だった。専門家の意見を聞きながら、さまざまなつながりを見つけて、古典の作品を組み合わせていった。
現代アーティストを選定するうえでの方針は大きく二つあった。まず、「美術」の枠にとらわれず、さまざまなジャンルからピックアップするということ。なぜなら、古い日本美術は、美術という概念がまだなかった時代からあったものだからだ。今で言う「ファインアート(純粋芸術)」とは別物だ。
「仏像は信仰と結びついているし、襖絵は襖という機能を持った道具に意匠を施したもので、いわゆる“美術”とは違います。そこで、現代アーティストも美術のフィールドに限定することなく、建築、デザイン、写真など、幅広いジャンルから考えることになりました」(長屋さん)
もうひとつは、明確なコンセプトとして戦略的に古い美術を取り入れている作家もいるが、そうしたアーティストは今回はあえてフィーチャーしない、ということだった。
「古典と現代アートを展示室で並べてみて初めて、類似や親和性が浮かんでくる組み合わせを目指しました。普段、無意識に受け取ってはいるけれど、よくよく考えると日本で古くからあった傾向みたいなものが、見えてくるといいと考えたんです」(同)
組み合わせる古典で、長屋さんが取り上げたかったのは、「これぞ、日本の古典」といえる作品だった。北斎、若冲、蕭白などの名前が挙がり、試行錯誤しながら現代アーティストと組み合わせていった。北斎はしりあがりさん、若冲は川内さんと組む花鳥画の一部(期間限定)として、蕭白は横尾さん、と古典と現代アーティストをマッチングさせるのは、パズルをひとつひとつ解いていくような作業だったという。