料理研究家の行正り香さんは、パリの有名なビストロで粋なはからいを受け、とても感激したという。その時の様子を行正さんはこう語る。

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 ある夏の午後、パリに住む友人と「ラミ・ルイ」という、とても有名なビストロに行きました。お客さんは新聞を広げる常連風の男性が一人。隣に座った私たちは、彼が食べている大きなステーキを見て、「あれと同じ物を」とウエーターに指さして頼みました。常連さんが頼む物が一番おいしいはずだからです。彼はステーキを半分残してレストランを出ていきましたが、その後、私たちが頼んでいないシャンパンが2杯サーブされました。彼が「同じ物を頼んだマドモアゼルたちに」とごちそうしてくださったのです。何て粋なんだろう。こんなふうに年を重ねるのってステキだわ、と感動しました。多分、友人が美女だったせいもありますが、それでもお礼を期待することなく、人に何かプレゼントできる人はステキです。

 一人でごはんを食べるのは、寂しく見えるから嫌だ、という人もいます。確かに、食べながら片手で携帯をチェックしている人は、どこか寂しくも見えます。でも反対に、食べる合間に本や新聞を開いたりしている人は、私にはとてもインテリジェントに映ります。自分の時間を楽しめる人なんだな、と思うからです。

 私もひとりレストランの似合うおばあさんになり、「あの若者にワインを」と言えたら。しかもそれが嫌らしくなかったらステキだな。(笑い)

 今週のレシピ「明太子チーズじゃが焼き」は本誌で紹介しています。 

※週刊朝日 2012年5月25日号