エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 岸田首相の“次元の異なる”少子化対策。数十年も遅きに失しているとはいえ、最優先課題として掲げるのはいいことです。これまで少子化対策といえば、いわば女をどうするか問題でした。それを今回は明確に、男性も子供のいない人も独身者も高齢者も含む社会全体で子供を産み育てやすい環境の実現に取り組もうということですから、期待しています。が、それを実行する上で政治家がどんなメッセージを発するのかという点が問題です。これまで「女性は産む機械」「たくさん産んだ女性を表彰する」などの発言や、当事者の悩みとズレた「3年抱っこし放題」などの母性神話の押し付けが炎上。新型コロナ感染症の流行初期にはいきなりの一斉休校で働く親たちが大混乱に。シングルマザーなど、それで仕事に行けず、収入を絶たれた親もいます。本当に“異なる次元の”少子化対策をやるなら、現在の「育児は女性の問題」という次元から、「少子化は自分の問題だ」と誰もが考える全く新しい次元に日本社会全体を引き上げねばなりません。これまで子育ては無関係だと思っていた人たちが「幼い人たちと共に生きる社会」を自分ごととして考え、行動するようになるには、家事と育児を女性に押し付ける習慣を捨てるゼロからの学び直しが必要です。まさに全社会的リスキリングが急務なのです。

誰もが子育てを自分ごととして考え、行動するようになる。必要なのは全社会的リスキリングだ
誰もが子育てを自分ごととして考え、行動するようになる。必要なのは全社会的リスキリングだ

 岸田首相も3人の子育てを経験したそうです。どこの家庭にもご苦労はあるでしょう。でも今日本で子育てをしている人たちは、親も保育士も教師もみんな本当にもうヘトヘトです。お金が足りない、人手が足りない、大事にされない、責められる。リスキリングした先に果たして就職や昇給のチャンスはあるのか。日本を覆うのは、不安しかなく希望が持てないという閉塞感です。これを変えない限り、子どもを持とうと思う人は減り続けるでしょう。

◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。

AERA 2023年2月13日号