


AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
岡山県にある精神科診療所にカメラを向け、大きな反響を呼んだ「精神」(2008年)。あれから12年、想田和弘監督(49)が、診療所の山本昌知医師を主人公に続編といえる「精神0」を完成させた。
「前作の撮影中から、いつか山本先生のドキュメンタリーを撮りたいと考えていました。患者さんたちから『神か仏か』のように慕われるこの人は一体、何者なんだろう?と」
山本医師との付き合いはずっと続いていた。2年前、82歳で引退するとの知らせを聞き、妻で共同製作者である柏木規与子さんと駆けつけた。
「診療場面はひとつひとつが今生の別れのようで、僕も撮りながら泣いてしまった。患者さんにとって山本先生はいわば命綱。いつかは来るとわかっていた『終わり』に直面することは、ものすごくエモーショナルな体験でした」
さらにカメラは山本医師と妻・芳子さんとの日常を映し出す。長年連れ添った夫婦の姿はある残酷な変化を内包しつつも、やさしくほほ笑ましい。期せずして「純愛映画」になった、と想田監督は笑う。
「山本先生の偉業は芳子さんがいて初めて可能だったのだと今回はっきりわかりました。でも、とかく妻の存在は背後に隠れてしまう。僕ももっと柏木に感謝しなければと反省しました(笑)。僕の作品は着想も撮影も編集もすべて柏木がいなければ成り立たない。そのことを僕ももっと表に出していかなければと」
リサーチや台本を排し、対象にじっと向き合う「観察映画」を実践して13年。
「映画作りがよりシンプルにミニマムになったと感じています。昔は『ここも、あれも撮っておかなきゃ!』という強迫観念があったけれど、いまは『これでよし』と思える。山本先生が台所でお茶の支度をする、ただそれだけの場面でも、こちらが腰を落ち着けて細部に注意を払い、よく見てよく聞けばそこにスリルやドラマが潜んでいるんです」