「獲得免疫は自然免疫が強化されると動きやすくなり、そこに特異抗原が存在すると、特異的な獲得免疫が始動しやすくなるということを考えると、BCGが自然免疫だけでなく、ウイルス抗原が存在する中では獲得免疫も動かした可能性があります」
オーストラリアやオランダでは3月末、医療関係者らにBCGワクチンを接種して、新型コロナの感染を防げるかどうかを確かめるための臨床試験が始まった。米科学誌サイエンスに掲載された報告によると、ドイツや英国でも臨床試験が準備されているという。
しかし前のめりになるわけにはいかない。宮坂さんは言う。
「BCGを打てば新型コロナに感染しないのでは、と短絡的に受け取られがちですがそれは間違いです。日本で新型コロナに感染している人のほとんどはBCGを接種しているはずです」
世界保健機関(WHO)は4月12日、BCG接種の新型コロナへの予防効果は科学的に確認されておらず、現時点では推奨しないとする見解を示した。
「いま大事なのはBCGが本当に効いているという科学的なエビデンス(証拠)を積み上げること。興味ある相関ではあるものの、科学的にはいまだ十分なエビデンスがありません」
新型コロナの重症化には基礎疾患や医療体制などさまざまな要因が絡むため、現段階ではBCGは「一つの候補」にすぎない。米国ではヒスパニックと黒人の死亡率が白人とアジア系の約2倍という調査結果が出たが、これは貧困率などが影響しているとみられる。同様に、たまたま現段階でBCGと新型コロナに相関があるように映っているだけかもしれないのだ。
また、BCG接種の効能・効果はあくまで「結核予防」であり、主たる対象は乳幼児だ。本来の目的と違う接種が増えれば、乳幼児が定期接種するBCGの安定供給が影響を受けかねない。宮坂さんは言う。
「免疫学的に、自然免疫を一番強く刺激できる免疫増強物質はBCGだとわかっています。ですから、同じような働きをもつ免疫増強物質を探せば、それが利用できるかもしれない」
今の段階でBCGに飛びつくのではなく、研究を見極め、乳幼児への接種にも十分配慮する冷静さが必要だ。(編集部・渡辺豪)
※AERA 2020年5月18日号より抜粋