ただ、五輪のマラソンの開催地が東京から札幌に変更になったときはかなりショックを受け、立ち直るのに時間がかかったという。
「親しくさせていただいてる山中伸弥さんがある大学の卒業式で『人間万事塞翁(さいおう)が馬』だとお話しになっていました。良くないことがあっても、次にいいことがある。いいことがあったとしても、悪いことが起こるかもしれないので気を緩めてはいけない。本当にそのとおりだなと思います」
これまでの瀬古の人生を表しているような話を聞き、明治維新の志士ゆかりの言葉を、記者は思った。
「おもしろき事もなき世におもしろく すみなすものはこころなりけり」
63歳になっても山あり谷ありの人生だが、その足を止めることはない。たたずまいこそ柔和になったが、マラソンで鍛え抜かれた精神は修行僧時代のまま、強靱だ。(本誌・鮎川哲也)
※週刊朝日 2020年5月22日号より抜粋