ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は最近増えているマンガ表紙の文芸書について。
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コロナウイルス禍。テニスコートも閉鎖されて、出かけるところがほとんどなくなった。よめはんと行く近所のスーパー、ホームセンター、馴染(なじ)みの料理店、書店、レンタルビデオショップ……。ご近所の狭いエリアをぐるぐるまわっている。この一カ月、大阪市内に出たこともない。
暇か。退屈か──。それがけっこう忙しい。昼ごろに起きて、オカメインコのマキと階下に降り、皿いっぱいのサラダと、昨日の残りのおかずと、少しのご飯や麺類を食い、リンゴやイチゴといった果物を食ったあと、マキを肩にのせて皿を洗いながら、湯を沸かしてコーヒー豆を挽(ひ)く。マキは豆を挽くガーッという音真似(まね)が好きだ。
コーヒーを淹(い)れると、ふたつのモーニングカップに注ぎ分ける。マキを二階の仕事部屋に連れて行き、葉巻を一本持って麻雀部屋に降りると、よめはんが自動卓の電源を入れ、コーヒーをふたつのテーブルにおいて待っている。
毎日、よめはんと麻雀をして飽きないか──。飽きない。千円、二千円だが、勝ってよめはんから金を毟(むし)りとると無性にうれしい。よめはんは「こらえてください」とゴキブリのごとく逃げまわるくせに、勝ったときは、「ほら、ちゃきちゃき払わんかい」と、やたらえらそうにすごむ。どういう性格や、こいつは。
麻雀は半荘四回で終わる。仕事部屋にもどってパソコンの電源を入れ、メールをチェックし、パイプに葉をつめてから原稿を書きはじめる。たまに鼻毛も切る。
──話が逸(そ)れた。なにを書くつもりだったのか。
そう、書店だ。近くの国道沿いにレンタルビデオショップと、わりに大きな書店が並んでいる。そうして昨日、よめはんと書店に行って文芸書の平台を眺めたとき、あらためて気づいた。「増えてる。マンガが増えてる」──。単行本の表紙の半分がマンガなのだ。