いまだ値段の仕組みに謎が多く、不透明で高額な"葬儀"。ライターの朝山実氏は、実父の葬儀の喪主を務めてから葬儀業界に興味を持ち、お坊さんたちを取材した。すると、葬儀業界の知られざる裏側、そして今生まれている新しい流れを聞くことができたという。

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 40歳を目前にして剃髪、霊柩車の運転手から、高野山真言宗の僧侶となった山本栄光さんは、大阪府内で師僧とともに修行寺を建設中だ。護摩修行を中心に布教活動を行ってきた山本さんたちは昨年、知り合いの葬儀会社にこんな案内を出した。
「枕経、通夜式、葬儀告別式、火葬場、還骨法要、初七日、四字戒名を含めてお布施を18万円で勤めさせて頂きます」
 私がお坊さんたちから直に話を聞いてみたいと思ったのは、昨年早春の父の葬儀の喪主を務めたのが発端だった。檀那寺の住職に、「自分で考えている戒名があるんですが」と話しはじめるや、住職は「そんなバカなことは聞いたことがない。あんた、どんなビジネスにも口出ししてはいけない領分がある。お父さんはお墓に入れないよ」とまくしたてられた。
 葬儀は、檀那寺の住職のお参りはお断りし、葬儀屋さんが紹介するお寺さんにお願いした。自作の戒名をみてもらった上で、葬式一切のお布施は50万円ほどをお包みした。慎ましい家族葬ではあったが、意を尽くした見送りはできたと思っている。それでも「あれでよかったのかどうか」と考えはするもので、何人かのお坊さんに、話を聞いたりしてきた。
「うちの父が亡くなった時と較べても、一式18万円は安いと思うんですけど」というと、山本さんは、「お布施は、布を施すと書くように、お気持ちなんです。だから、お坊さんが決めるものではない」
 案内で金額を明記したのは、「うちはお金がないから、火葬場で拝んでくれるだけでいい」と言う依頼を頻々と耳にするようになったからという。
 なかには3万円、5万円しか出せないということもある。そんなときにも、山本さんは「一生懸命供養させていただきます」と、枕経から初七日まで勤めた。
 山本さんの寺院が異色なのは、もうひとつある。業界では暗黙のしきたりとなっている葬儀社へのキックバックをしないということである。
「領収書をいただけるなら構わないですが、そうでないと法律に触れますから」
 葬儀社にお布施の3割から半額を戻すのが、業界の隠然たる慣例だといわれる。"裏金なし"となると、紹介してもらえる葬儀屋さんの数は限られてくる。
 葬儀業界関係者はいう。
「だから、ちゃんとしたお寺さんほど、食べていけないんです」

※週刊朝日 2012年4月13日号

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