下層社会に生きる人々を独特のユーモアで書きつづることで知られる作家の戸梶圭太氏(43)が3月21日、突如ツイッターに怒りのつぶやきを書き込んだ。

〈決定です。『福島恐怖の秘境』は徳間文庫からは出せなくなりました〉

〈私個人でどうにかして世に出すべく、しかるべき人たちに地味に働きかけて生(原文ママ)きます。とりあえず本当に最悪の事態になりました。ここまで来て、いきなりこんな簡単に潰されるとはね〉

 戸梶氏は人気警察小説『迷宮警視正』の続編となる『迷宮警視正2・福島恐怖の秘境』(仮題)の刊行を徳間文庫から今春予定していた。しかし、完成原稿を渡した後、編集部から突如として発売中止を伝えられたというのだ。

 こうしたことは出版界では極めて異例のこと。出版社が今春の発売をためらった『福島恐怖の秘境』とはどんな内容だったのか。

 戸梶氏のツイッターによると、〈福島原発近くの人が住めなくなった放射能汚染地帯に全国から指名手配犯や多重債務者や食い詰めたやくざなどが自然と集まってきてしまい恐怖と暴力が支配する町ができたというもの〉。

 事情を知る出版関係者が言う。

「内容が内容なだけに校閲担当者が最終段階で問題視したようです。それを受けて編集部が自主的な判断を下したようですね」

 出版専門誌「紙文化」の丸島基和編集長は今回の一件をこう見ている。

「出版物の内容についての責任は、出版者と著者がともに負っている。出版者側は福島の方の気持ちに配慮したのでしょうし、判断は理解できます」

 その後、発売中止ではなく延期となったと戸梶氏はツイートしたが、発売日は未定。果たして、ファンは幻の作品を読むことができるのか。

※週刊朝日 2012年4月13日号