“いいじゃん別に”が小学生の頃の星野の口癖だった。皆が言うほど批判すべきことが多いと思えないときに口にした言葉だ。象徴的なエピソードがある。林間学校の肝試しのとき、星野は誰かとペアを組むことになったが、誰でもいいやと思っていたら、あぶれていた女子と組むことになる。彼女は学校で「臭い」などといじめられていた。「バリア」のポーズをしてくる人もいたが……。

「実際には臭くないし、別にいいじゃんと。規則だし先生に叱られるから手を繋ごうと言って一緒に歩きました。“いじめはいけないから”という気持ちではなかった。別れ際『ありがとう』って言われて。か弱く無表情な声だったけど、人に対して簡単にバリアを張らないことで成立する対話があると実感できた、貴重な体験になっています」

 北里大学医学部へ進んでからも、人への接し方は変わらなかった。友人の新美裕太(43)が語る。
「みんなが嫌っている人に対しても否定から入らず、必ず相手のいいところを見つけていましたね。善人ヅラしているわけではないんです。だから嫌われている人からも好かれてました」

 そもそも自分と異なる行動原理で動く存在に惹かれるタイプだ、と星野は自己分析する。幼い頃から野生動物が好きで、図鑑やテレビ番組を好んで見ていた。地球のどこかで、この瞬間も生きている。それを想像するだけで愉しかった。動物だけでなく人体への興味があったので、医師を目指したわけだが、専門を精神科に決めるときも、自分と違う行動原理をもつ発達障がいの子どもを知ったことが動機となった。

「社会でうまく生きるのが難しい人たちのことが漠然と気になっていたんです。何とかしてあげたいなんて偉そうな気持ちはなかったんだけど」
 行動原理が異なる対象に関心を持つのは、自身が個性的な歩みをする傾向が強いからかもしれない。彼は27歳から7年間も、医師活動を最小限にとどめ、音楽活動中心の生活をしていたのである。

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