

「BRUTUS」や「エル・グルメ」などに連載を持ち、最近ではいとうせいこうさんと対談した『自由というサプリ』を出版。星野概念さんは、精神科医でありながら、音楽に執筆にとマルチな才能を見せる。もともとは音楽で食べていきたかったが、その音楽で挫折。けれどもその挫折を経験すると、患者の気持ちがずっと理解できるようになった。患者の伴走者でありたいと、技を磨く。
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作家でクリエイターのいとうせいこう(59)は、精神科医・星野概念(42)に診察をお願いしようと思った瞬間をいまもはっきりと覚えている。
6年前のこと、自身のバンド「□□□」のサポートギタリストとして星野が参加していた。iPhoneから流れる時報と同じテンポで全員が演奏を始めるという曲のリハーサル中、いとうは「117」番に電話したはずが、誤って「119」を押してしまった。“あっ”と焦っていたら、星野が調弦をしつつ、つぶやくように言った。
「そういうことには理由があるもんですよね~」
星野は、無意識的に救急車を呼ぼうとしていた可能性を口にしたのだが、いとうは、仕事がパンパンで危機的な状況にある自分の心の内を見透かされているように感じた。しかも自分に言っている風でもなく、それを聞いたメンバーは和んでいる。その絶妙な対応に驚いた。
「星野君の音楽のプレイを見ていてわかるんだけど、彼はすごく敏感。だから、患者が貧乏ゆすりしてるとか、今日は呼吸が浅いなとか、その日の変化をすごく感じ取れるんだろうな。それって音楽的なコミュニケーションだと思うんですよね」
バンドメンバーのわずかな動きから、どう演奏しようとしているのかをよく観察しているので、感じる力が養われたのだろうと星野は言う。確かに彼が複数の人と話しているのを聞いていると、相手が言ってほしい言葉をするっと忍び込ませる。だから、彼と一緒にいると、“わかってくれているな”という安心感がある。いとうが言う。
「彼って、“ふかふか”な感じがするんですよ。寝心地のいい枕とか布団みたいな感じの」
ふかふかの秘密を探ってみた。