普遍的なテーマの一つ目は「自然科学」。無人島では虫や魚がとれるのですが、チョウが飛ぶ動きの美しさや魚の動きの優美さなど、つくり込みがとても精緻なのです。生き物の分類や採集の楽しみというのは、老若男女、国境を越えてすべての人に心当たりがあることですよね。
そして二つ目は「箱庭要素」。実際に日常生活で体験した家や街をミニチュアで再現して遊ぶ楽しさが、さまざまな角度から体験できるようになっています。自分が行ったことのある、あるいは行ってみたい場所をつくるのは、やはりあらゆる人が楽しめることでしょう。これをリアルな空間で実践するのは大変ですが、自宅に居ながらにして、自分の頭の中にあるすてきな空間に出かけることができる。しかも他のプレーヤーを自分の島に呼ぶことができるし、プレイ中の写真や動画をSNSで上げることもできます。
つまりは自分がしつらえた箱庭がこんなにすてきに仕上がった、というのを自慢できるわけで、それが発展すると「インスタ映え」になる。これはかつて、旅行や友達同士で飲み会をした時の写真などで行われていたと思うのですが、コロナ禍でできなくなってしまった。だから、「インスタ映え」の上手なデジタルネーティブ世代がまず「あつ森」でやり始めて、それを見てこれはいけると気づいた周辺の人たちもどっと押し寄せた、というのが今回の大ブームとなった一番の理由ではないでしょうか。
■人間性がより重視されるコミュニティーへ
外出や大規模なイベントの自粛傾向が続く中、「あつ森」には未来のコミュニティーつくりのヒントがあると、永田さんは考える。
今までのコミュニティーづくりは、オープンスペースやシェアハウスなど、具体的に集まれる場所を確保してきました。しかし今回オンラインが発達したことで、物理的にたまたま近いとか、便利な場所にあるということが、人の集まる理由にはならなくなりました。だから今後のコミュニティーには、より「人間性」が求められると思います。面白いと思う人の周りに人が集まったり、逆に自分と合わない人とは一緒にいなくても良かったり、ということも。
フォロワー数の多いユーチューバーのように自分を表現できなくても、例えば「あつ森」で魅力的な空間を作ってみることは、コミュニティーづくりのスキルアップにもなるかもしれません。ちなみに私はSNSで情報交換している研究仲間と一緒にプレイしているのですが、空間づくりにおける趣味趣向や手間のかけ具合など、それぞれの性格が如実に表れています(笑)。研究者同士の場合はリモートでのやりとりが多く、住んでいる地域もバラバラなので実は年に数回しか会わない、なんてことも。きちょうめんだったり、ざっくりしていたり、意外とかわいいものが好きだったりなど、それぞれの人柄を改めて知ることができたのは新たな発見でした。
また、主人公の外見一つとっても、自分そっくりなアバターだったり、全く別人だったり、自分がどんな風に見られたいのか、どういう人として扱ってほしいのか、ということが表れている。バーチャルだからこそ制限なく、自分のイメージを表現できるので、これからはオンラインでのコミュニティーにおいても、自分の居場所を見つけることが、人生を豊かにする方法の一つになるかもしれません。(構成=カスタム出版部)