そして、弾圧の矛先は、香港政府や中国共産党に対して厳しい批判を続けてきた新聞や、「少年への銃撃」など武装警察の蛮行をライブ配信してきたネットメディアにも向けられる。
当局による逮捕歴もある「蘋果日報(ひんかにっぽう)」(アップル・デイリー)の社主、黎智英(ジミー・ライ)氏は、連日ツイッターに投稿。習近平のことを「独裁者」と言い切り、「香港版・国安法」を押し付けようとしている中国共産党を「香港のみならず世界の平和を脅かす存在」だと繰り返し批判する。同法が施行されればこうした発言は違法だとして逮捕される可能性が高い。またメディアにとってはそうした「逮捕」のみならず、自分たちの媒体への広告出稿を自粛する企業が増えていることも脅威となっている。「蘋果日報」もそれによって営業的に苦しい状態に追い込まれており、社主自らが海外の人々に購読を訴えている。
「海外のお仲間や米国人は、ぜひ蘋果日報の英語版を購読してください。購読は金銭的な援助だけではなく、中国共産党の弾圧に対して私たちを政治的に保護する役目も果たします」(6月3日の投稿)
その「蘋果日報」の記者、姜偉康(キョンワイホン)さんは「私も仲間たちも弾圧には屈しない」と語るが、彼の妻は苦しい胸中を吐露した。
「初めて家族会議を開きました。夫も子どもたちも私もみんな香港に残りたいけど、夫が失業する可能性もあり、自分の実家(日本)に移り住むことも選択肢の一つになってきました」
そうした葛藤は姜さん一家に限ってのことではない。「香港版・国安法」は普通の香港市民を動揺させ、多数の人々に「移住」について考えさせている。
これまで、大規模な街頭デモに参加したり武装警察に徹底抗戦したり、あるいは区議選に参戦したり、香港市民は逮捕や殺害など大きな犠牲を払いながら最大限の努力を重ねてきた。それだけに、中国共産党があからさまに香港に介入して「香港版・国安法」を押し付けることは、運動を続けてきた香港人を落胆させており、なかには「戦意喪失」の若者もいる。