中国が香港政策を大きく転換させた。「一国二制度」の看板を取り下げ、反体制的な言動を取り締まる「国家安全法制」の導入を決めた。香港の民主主義は曲がり角を迎えた。AERA 2020年6月15日号は香港に迫る危機と人々の本音に迫る。
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中国共産党、そして習近平(シーチンピン)・国家主席は、香港の「一国二制度」を維持する“フリ”をしてきたが、その“フリ”さえやめ、香港市民が守ろうとしている「自由と民主」を奪う姿勢をあからさまにした。
中国の最高権力機関にして国会でもある全国人民代表大会(全人代)は、香港で反体制的な言動を取り締まる「国家安全法制」を香港の政府や立法会の頭越しに導入する方針を5月28日に採択した。この8月にも「香港・国家安全条例」(以下「香港版・国安法」)として施行される予定だ。
「香港ではラスボス登場という人もいますね。これまでは林鄭月娥(キャリー・ラム、香港行政長官)と闘ってきたけれど、今回直接、習近平と対決するステージに入ったと。国家安全法導入が香港の審議を経ずに北京で決定されたことで、一国二制度は実質上終わりました。この法律は、いわば治安維持法のようなもの。2003年に制定しようとして猛反対にあって却下されていたものです」
そう話すのは、かつて香港中文大学に留学したこともある大阪大学の深尾葉子教授。実際、この1年余りさまざまな抗議運動に参加してきた香港市民の多くが、「香港版・国安法」が施行されれば、これまで以上に自分たちの政治的・市民的自由が束縛されると危惧している。
施行されようとしている条例の中身は「国家、政権を転覆させる行為を禁ずる」「組織的テロリズムを取り締まる」など、ある意味当たり前の条文。だが、この法律を運用する政権が独裁的であれば、自由と民主を求めるデモや中国共産党を批判する集会に参加した人々は、それが非暴力であったとしても「国家を転覆させようとしている」「テロを企てている」とみなされて逮捕される可能性がある。ましてや、武装警察の催涙弾攻撃などに火炎瓶や投石で対抗してきた「勇武派」の若者らは、また同じことをやれば反政府のテロリストとして、次々と投獄されることになるだろう。