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人生はみずからの手で切りひらける。そして、つらいことは手放せる。美容部員からコーセー初の女性取締役に抜擢され、85歳の現在も現役経営者として活躍し続ける伝説のヘア&メイクアップアーティスト・小林照子さんの著書『人生は、「手」で変わる』からの本連載。今回は、今の仕事が「つまらない」と嘆く人たちへ、どんな経験でも身体に染みこませておくべき理由をお伝えします。
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これはまだ私が20代の頃の話です。美容部員を教育する教育部門で働いていた頃、全国の美容部員向けに配る冊子をつくっていたことがありました。その中に「今月の特集」といった特集ページをつくり、そこを部の人間で、ローテーションを組んで作成していたことがありました。
テーマ設定は自由なので、私は自分の番がまわってきたときに結構悩みました。先輩方には「難しく考えないでいいよ」とは言われるものの、全国の美容部員が読んで役に立つ特集でなければ意味がない。困った……。
そんなときに役立ったのは、やはり私自身が美容部員として店頭に立っていたときの経験です。昭和30年代初頭は、町の化粧品屋さんと言えば一緒にいろいろなものを売っていました。それこそタワシ、ちり紙なども全部一緒です。タワシやちり紙を買いにきたひとは、パッと買ってパッと帰るという感じでしたが、商品を購入するまでにうんと悩まれる方もいるのです。それは「ストッキング」を買いにきた女性たちです。
いまのようにたくさんの情報が流れている世の中ではありませんから、皆どれがどんなストッキングなのかわからない。その当時からストッキングの外袋には、編んでいる糸の太さ(重さ)を示す「デニール」表示がありましたが、多くの方がなんのことなのかわからない。そこでストッキングを買いにくるひとは悩み、お店の滞在時間が長くなる。そこで美容部員の私たちは、その“ストッキングを買いにきた女性たち”に声をかけるのです。