両親に就職できなかったことを告げると、今までにないほどに責められた。
「お前にいくら学費をかけたと思っているんだ! 恥ずかしい人生と思わないのか!」
父親から罵倒されたことでキレた飯田さんは、学生時代にバイトでためた30万円を持って自宅を飛び出した。
「何も悪いことをしていないのに、なんで責められければいけないんだと。この環境を変えたかった」
飯田さんが初めて両親に“反抗”した瞬間だった。
図らずも1人暮らしをすることになった飯田さんは、「今すぐに働けるところ」を最優先にバイト探しを始めた。そこで見つけてきたのが外食チェーン店での接客とクリーニング工場でのシミ抜き・衣類運びの仕事だった。週6日、がむしゃらに働いて月収30万円は稼げるようになった。体がしんどいと感じることもあったが、若さで乗り切った。しかし、30歳を目前にして、大学卒業後はバイトしかやってこなかった自分の将来に、漠然とした不安を感じるようになった。そんなとき、
「ちょうど働いていたクリーニング工場で正社員を募集していたので、立候補することにしました」
バイト歴8年となれば仕事は体が覚えている。飯田さんはすぐに採用されるかもしれないと期待したが、正社員への道は甘くなかったという。
「正社員登用まで『研修』という名目で、毎週のように読書感想文を書かされたり、社訓を覚えさせられたりという課題が2年近く出され続けました。結構体育会系の職場なので、忍耐力や忠誠心などが試されていたのかもしれません」
外からみると少し“ブラック”のにおいもするが、飯田さんの努力のかいもあって、無事正社員に合格。32歳のときだった。
その時、自分への就職祝いとして、通勤用に鮮やかなオレンジ色のバッグを買った。今では薄汚れてみっともないと思ってはいるものの、買い替える金銭的余裕もないため、現在も使い続けているそうだ。
「昔も今も、相棒のような存在じゃないですかね」
照れくさそうにそう話した。