グラビアで見かける若いジャニーズ系の美男子もみなのっぺりして深みがない美形が多い。

 臈たけたとは、もともと世阿弥の『風姿花伝』では男性にも使われたそうだが。

 男にも女にも臈たけたひとを見かけない、現実に存在しないとなると、死語になってもいたしかたないのだが、だからこそ私は道ゆく人々の中にも臈たけたひとを求めてしまう。

 私が一番ふさわしく思うのは美智子上皇后の母君、正田富美子さんだろうか。皇室に入った娘のことを想いながら、表に出すことなく自分の心の中で精神的に鍛え上げたそのすっくとした立ち姿に漂う気品と勁さ!

 それを養うにはどうすればよいか。外に出ることができないコロナ自粛の時期こそ、自分を見つめるための大切な機会だ。ふだんは忙しく外からやって来る情報にふりまわされているが、じっくりと自分の奥底に潜んでいる様々な感情とつきあい、自分を鍛えるチャンスと捉えたい。ひょっとして臈たけたひとも、言葉も、生き返るかもしれないではないか。

週刊朝日  2020年6月26日号

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下重暁子

下重暁子

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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