取引高世界一を誇る豊洲市場が、市場移転の混乱による傷口も癒えぬうちに、再び危機に瀕している。東京都が6月21日に施行する条例に、市場関係者から「日本の食文化を壊しかねない」との声が上がっているのだ。
発端は、2018年に成立した改正卸売市場法。これにより、これまで都道府県や人口20万人以上の都市に限られていた中央卸売市場の開設に民間業者の参入が認められるようになるなどの、規制緩和が進められた。
卸売市場では、卸売業者が全国から集荷した生鮮食品をせりなどで仲卸業者に売り渡し、仲卸業者が小売店や飲食店に販売している。
だが、法施行後は卸売業者が仲卸業者を介さずに直接、場外の小売店や飲食店に売ることもできるようになる(第三者販売禁止の廃止)。店側にとっては、仕入れコストが削減できるという理屈だ。
東京都は法改正を受けて都中央卸売市場条例を改正し、昨年12月、都議会で成立させた。東京中央市場労働組合の中澤誠委員長が怒りを込めて言う。
「公正な取引を行うための規制が取り払われ、価格決定がブラックボックス化する恐れがあります。これまでは純粋な需給バランスで適正な価格が付けられていましたが、価格吊り上げなどの操作が可能になってしまいます。例えば『委託物品の即日上場』といって、卸売業者は当日仕入れた魚はその日のうちに売らなければならないことになっています。卸売業者が魚を隠してしまって少量しか販売しなかったら、値段が吊り上がってしまうからです。今回、この規制も撤廃されました」
都は中央卸売市場の運営は続けていく方針だが、ほぼ改正法通りに規制を撤廃した。中澤氏が説明する。
「卸売市場法を所管する農水省は規制の撤廃については柔軟で、各自治体の判断に委ねたのです。例えば、札幌市は市場関係者と公式会議を約40回も行ったうえで、現行の規制の多くを残す決断をしています。ところが、東京都はきちんと議題に上げて公式会議を行ったのは、昨年10月28日の1度だけです。条例の中身は難しいし、市場関係者に十分な理解が得られたとは思えません。いかにも小池都政らしい乱暴なやり方です」