大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
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※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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 皮膚にこれまでなかったぶつぶつなどができると、どんな病気なのかと不安になります。その原因が知りたくて、患者は病院を受診します。診察した医師が、すぐに原因をつきとめてくれれば一安心となるところですが――。京都大学医学部特定准教授で皮膚科医の大塚篤司医師が、自身の外来診療の経験を語ります。

*   *  *
「皮膚科医の仕事ってどういうところが面白いんですか?」と聞かれることが最近何度かありました。この質問は大学医学部の授業の中で、学生に皮膚科の魅力を伝えるときによく自問する内容です。

 皮膚科診療の醍醐味の一つは「見てすぐわかる」ことです。典型的なぶつぶつの分布や特徴的な皮膚の変化など、ぱっとみて診断がつく皮膚病がいくつかあります。これを診察室でさっとできると気持ちがいいしカッコいい。

「数日前から肩にぶつぶつができてすごくかゆいんです」

 そういって患部を見せてくれた患者さんに、

「これは毛虫が原因ですね」

 と瞬時に診断をつけます。

「え、毛虫なんですか? 外に出てないんですけど……」

「このぶつぶつは皮膚科医が100人いれば100人が毛虫と診断すると思います」

「そうなんですか」

 そのままステロイド外用剤を処方し、数分で診察が終わり。

(私ってできる医者だな)

 20代の頃は、こうやっていち早く診断をつけ的確に薬を出すことに酔いしれていた自分がいました。

 あるとき、いつものように毛虫皮膚炎で瞬く間に帰っていった患者さんが翌日、同じ病院の先輩医師を受診していたことがありました。

「昨日こちらに受診して毛虫皮膚炎って診断されたのですけれども」

 患者さんの声がとなりの診察室から聞こえてきます。

「昨日の先生、ぱっと見ただけで毛虫が原因とおっしゃっていて心配になって今日来ました」

「どれどれ、見てみましょう」

 先輩医師は時間をかけて発疹を観察し、体のあちこちを確認した後、

「大丈夫です。毛虫皮膚炎でよいと思います。昨日もらった薬を使ってもらえれば治ると思いますよ」

 と声をかけました。

「ありがとうございます。安心しました」

 お礼を言って帰っていく患者さんの納得した声を聞いて、私は申し訳ない気持ちになりました。

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