「(巨人の)吉川に打たれて逆転されました。もう叫びましたよ」

 状況を教えてもらうと、試合はすでに八回に差し掛かっていた。どうやら記者が移動している間に、巨人が阪神に逆転したようだ。その瞬間を見逃してしまうとは、なんたる失態…。

 その後、両チームのリリーフが好投し、試合は膠着(こうちゃく)状態に。スポーツバーとは対照的に、こちらは静寂に包まれ、屋根に打ち付ける雨音が響き渡っている。たまに近くを通りがかる通行人が、「何事か」という様子でこちらを見てきたが、プロ野球が開幕したのだということを察したのか、納得した様子で立ち去っていく。そして数人の警備員がやや離れたところから私たちを見守っていた。

 そして午後9時前。試合が終了した。3対2で巨人が勝利。ジャイアンツタオルを首に巻いた男性が「よっしゃあ」と飛び跳ねるように喜びを爆発させると、近くにいたスポーツ新聞の記者から感想を聞かれていた。対照的に、記者の隣にいた福山さんは無言でうなだれていた。

「悔しいですね。明日の試合もここに来ます」

 そう言い残すと、福山さんは足早に球場を後にした。勝利の美酒も、敗戦の悔しさも、プロ野球が開幕してこそ味わえるものだ。取り戻しつつある日常の喜びを、いま、全国のプロ野球ファンがかみしめていることだろう。ふとスマホを見ると、横浜が1対5で敗れていた。悔しいが、気分は晴れやかだ。

「明日は必ず勝つ!」

 そう心につぶやいて、記者も球場を後にした。(AERAdot.編集部/井上啓太)