序盤の試合展開は落ち着いている。二回を終えて0対0と、投手戦の雰囲気が漂い始めた。場所を変えよう。ともに観戦した仲間たちに別れを告げ、球場から徒歩10分弱のスポーツバーを訪ねた。周辺の店は、ぱらぱらと客はいるものの、空席が目立つ。だが、記者が訪れたスポーツバーは満席だった。飲食をともなうため、店内にマスクをしている客はほとんどいない。対照的に、店員たちはみなマスク姿で働いていた。店内に設置されたモニターには、先ほどの巨人戦が流され、試合の様子を肴に多くの人が酒を楽しんでいる。なにより、忙しそうにしている店主の男性がうれしそうだ。

「4月から昨日まで休業していたんです。うちは東京ドームで何かイベントがないと勝負できないから。無観客試合だから試合後の客入りは見込めないけど、それでも本当に助かりました」

 話を聞いている間に、阪神が1点を先制したようだ。店内はほぼ全員が巨人ファン。ため息やら、「なんだよ」というヤジやらが湧きおこる。だが、そこに悲壮感はない。悔しさもふくめて、試合を楽しんでいるのだ。試合に見入っていた女性2人組に話を聞こうとすると、「すみません、イニング間にしてください」とあしらわれてしまったが…。

 そうこうしているうちに、巨人が同点に追いついた。今度は大歓声があがり、となり同士でハイタッチする人たちもいる。記者も楽しんではいたものの、横浜DeNAベイスターズファンゆえ、同じほどには盛り上がれない。ふと彼らがうらやましくなった。

 スポーツバーで飲みながら、最後まで観戦といきたいところだが、あいにくの満席だ。立ち見で長居しては店に迷惑である。もう一度東京ドームへ戻ることにした。

 外は先ほどよりも雨脚が強まっている。だが、幸いにもドーム周辺は屋根があるため、観戦の間に濡れる心配はない。先ほどまで20人ほどいたファンは、半分ほどになっていた。先ほど話した“虎党”の福山さんのテンションがなにやら低い。いったいどうしたのだろう。

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ドーム周辺は静寂に包まれ…