「はやくドリルをやりなさい。学校の宿題も残っているでしょう」
6月に学校が再開して、3週間目の朝6時半。東京都内に住む由美さんは、小学1年生の娘にそう声をかけながら、ベッドからリビングに連れていった。
学校で授業も始まったが、ペースははやい。急に宿題の量が増えたため、自宅学習のドリルが終わらない。昨晩、娘が寝たのは夜10時半すぎだ。
入学式の翌日から休校になった。だが、5月まで学校の課題もほとんどなく、「新しい教科書を読んでおいて」という程度だ。
学校をあてにしていたら学習が遅れる――。その思いから、大量のドリルと英会話教室の宿題が毎日のノルマになった。
子どもにとって、楽しいはずのない生活だ。机に向かうはいいが、目を離すとボーッとしている。やがて「注意」は、「怒鳴りつけ」に変わっていった。
学校が再開すると、宿題や提出物にも追われるようになり、由美さんのイライラも娘のストレスも限界に達した。
数日前から娘は、「つかれたから、がっこうをおやすみしていい?」と口にしはじめた。
友だちとは楽しそうに遊んでいる。しかし、コロナ対策を強化する学校生活は制限が多い。休み時間に校庭に出ることもままならない。教室で話をするか、本を読むよう指示されるかで、つまらないとぼやく。
再開3週間目となった、冒頭の朝。てきぱきと動かない娘にいらだちが募り、由美さんは机をたたいた。「きちんと宿題を終わらせないと、先生にダメな子って思われちゃうよ」
その夜、娘は腹痛を訴えて一晩中、胃液を吐き続けた。
6月から多くの地域で学校が再開したものの、子どもたちは異例の環境下で、新しい学年を迎えている。
うつや不登校で苦しむことがないよう、ケアの必要性も指摘されているのだ。
公立小学校で23年間教師を務めた教育評論家の親野智可等さんは、心持ちや態度が不安定な子、落ち着きのない子、攻撃的な子、自己肯定感の低い子たちについて、こう分析する。