■江戸から続く「箱庭遊び」

 箱庭療法とは、内側を青く塗り、砂を敷き詰めた箱を使う心理療法の一つだ。砂の形を変えたり、箱のなかに人や動植物などのミニチュア玩具を置くことで、無意識下にあるものを表現したり、ストレスの発散に役立て、自己理解を深める。実際に受けるときは、精神科医や臨床心理士など、専門のセラピストが併走してくれる。

「『あつ森』は箱庭療法ではなく、『箱庭遊び』に近いでしょうね。日本には江戸時代から、限られた空間にモノを置いて世界を作り込む箱庭遊びがありました」(三宅さん)

 箱庭療法では治療の回ごとに作っては壊す。そして、回を重ねながら、心理的な変化を観察していく。この点が継続して遊びが続く「あつ森」とは大きく違うと三宅さんは指摘する。

 また、「箱庭療法」が自分自身の内面に深く入り込むのに対し、「あつ森」では動物キャラや他のプレーヤーとの交流が重視されることも異なっている。

 ただ、「あつ森」で新しく加わった川や崖の造成機能は面白いと三宅さんは言う。箱庭療法でも砂をかきわけて青い部分を露出させ、海や川を表現したり、砂を高くして山を作ったりすることができるからだ。

「箱庭療法では、ときに破壊したり、闘ったりする物語が展開されることもあります。私は『あつ森』を整合性のある美しい世界をつくるゲームと思っていましたが、アグレッシブな行為も可能なのは興味深いです」

 そう語る三宅さんは、「あつ森」で熱心に取り組んだことに「現実でも挑戦するといい」とアドバイスする。たとえば、ゲーム内で花の交配が楽しかった人は実際に植物を育ててみる。DIYにハマった人は日曜大工に取り組んだりしてみるのだ。

■「没頭」が不安を払拭

 理由には、ユング心理学で重要な意味を持つ「ペルソナ」が関係している。私たちはふだん社会に適合するために仮面、つまり「ペルソナ」をつけて生活している。しかし、「ペルソナ」の下には本来の自分が隠れている。ユングは「ペルソナ」に隠れた内面を表現しながら、本当の自分自身になっていくことを「個性化」と呼んだ。

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