来年、誕生から40周年を迎える『アンパンマン』。子どもから大人まで誰もが知る、国民的漫画だが、その作品は、"正義の味方"への違和感から生まれたと、作者のやなせたかし氏(93)が語った。
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1973年、フレーベル館から『あんぱんまん』が刊行された。
俺は幼児絵本は描けないって、ずっと言ってきたんだ。それまでの幼児絵本は「ブランコぶらぶらうれしいな」みたいなものが多かったからね。『やさしいライオン』が売れて、また書いてくださいと頼まれて書いたのが『あんぱんまん』です。その頃はやっていたのが、いろんな兵器で悪いヤツをやっつけるスーパーマンもの。どれも、原野を焼き野原にして、弁償もしない。それで、「正義は勝った」って。俺は「ええっ? 間違いじゃないの?」って。
俺自身、ドンパチはやらなかったけど、中国の民衆を助けるって、戦争に行った。それが、戦争が終わったら「悪魔の軍隊」だよ。正義はひっくり返るんだ。要するに、戦争自体が、すでに悪なんだ。じゃあ、ひっくり返らない正義って何かっていったら、飢えている人を助けることじゃないか。そして、正義は自分が傷つくことなしに行えない。それで、自分の顔を少しずつ食べさせるスーパーマンを作ったんです。
※週刊朝日 2012年3月16日号