●各地の産業を盛り上げた「アマビエ」
神社仏閣がこんな調子だからか、コロナ撲滅で人気となったのが「アマビエ」である。江戸時代に紹介された妖怪で、肥後国(熊本)の海から現れたと記録にある。コロナが広がる2月末頃からSNSで話題となり、ついには厚生労働省のコロナ対策用のアイコンにまで登場するに至っている。水木しげる氏の作品などにも過去取り上げられてはいたが、ここまで認知されるには至っていない。現在、地元の熊本のみならず、各地の名産品の中に取り入れられ、だるまやこけし、Tシャツ、クレヨン、水引細工、和菓子、アイスクリームなどに加工され、ついにはハローキティともコラボを果たした。あげくに神社仏閣の御朱印やお守りにまでなっているというから、すでに妖怪から神仏へ格上げされたようである。
●アマビエに続く予言の妖怪
「アマビエ」伝説は、人々に豊作と疫病を予言したというものだが、各地にはこれに似た話が種々残されている。新潟県などに伝わる「アマビコ」、丹後国(京都の一部)をはじめとした西日本各地の「くだん」、加賀国(石川県)白山の「ヨゲンノトリ」などに代表されるが、次々と各地元で紹介され始めている。これらの広がりは、ひとえにTwitterやYouTubeといったSNSの力によるところが大きい。昔は「川のそばの神社にお願いすると病気が治った」と口コミで広がっていた“御利益”が、今はSNSで拡散されている。
そんなもの“効く”はずがないと思っていても、はやっているからと手を伸ばす人も多いのだろう。そしてわずかでも効き目があるのではと考える──まさに神仏に救いを求める態度ではないか。
そんなアマビエに、神社仏閣までがすがっているというのは笑い話にもなりはしない。本来ならば、こんな時こそ地元の力になるべきではないのだろうか。夏越の祓えは目の前である。茅の輪がなくなり、門戸を閉ざされては、半年の穢れを人々はどこで祓えばよいというのだろう。仕方がないのでとりあえず、私は「水無月」を買って食べておこうとは思うが。(文・写真:『東京のパワースポットを歩く』・鈴子)