林:それだけ話題になっている本ということですよね。石井さんは、「ノンフィクション作家には二つの罪があって、一つは書いたことの罪、もう一つは書かなかったことの罪」とおっしゃっていますけど、『女帝』はその程合いが素晴らしいですね。文学的にも非常に高い価値を持っていると思います。「暴露本だ」みたいに言う人もいますが、卑しい下品なところから出発してなくて、ノンフィクションってやっぱり志だなと思いました。志が低くないから感動的だし、読後感がいいんですよね。これだけいろんなイヤなことを読まされても。
石井:ありがとうございます。そんなお言葉をいただいて。
林:ノンフィクションって、すごくつまらないノンフィクションと、すごくおもしろいのがあるじゃないですか。
石井:はい……。あっ、「はい」なんて言って(笑)。
林:どれだけ資料を集めたかもあるけど、文章がうまい人じゃないとノンフィクションはおもしろくないということを、石井さんの本でつくづく思いました。
石井:ありがとうございます。
林:この本、小池さんの学歴詐称疑惑のことは一部で、小池百合子さん的なものに非常に甘い、日本の男たちの姿があぶり出されていますよね。
石井:ええ。
林:これは飛躍した例だけど、たとえば「夕ぐれ族」(1982年に実在した売春あっせん組織の名称)のころ、「私はいいところのお嬢さんで、学校は聖心に行ってます。でも、名前は出さないで」とか言って、その売春組織にいた自称女子大生の言うことは、みんなウソだと知ってるのに、マスコミの男の人、それに乗っかってチヤホヤしたじゃないですか。そういう男の人たち、今は偉くなってると思うんですけど、ちょっと反省してほしいなと思いますよ。
石井:まさに共犯ですよね。男の人たちの言い分を聞くと、「女の人を何とか引き上げてあげたいという善意からやったことだ」と言うんですけど、すべての女の人にそれをやってはいないような気がするんです。やっぱり「カワイイ女の子」が引き立てられるし……。