秦准教授のこの調査は、国土交通省が定めた「洪水浸水想定区域図」と、国勢調査に基づくものだ。この洪水浸水想定区域とは「降雨で氾濫した場合に浸水する危険性が高い場所を示した区域」のことで、「計画規模の降雨(50~150年に一度の大雨)」を想定している。
とりわけ注目したいのが、「浸水世帯数比」だ。何と、埼玉県南部の戸田市は大雨で市の99%もの世帯が大雨で1メートル以上浸水する。続いて京都府南部の久御山町(くみやまちょう)、埼玉県南東部の蕨市、大阪市城東区がいずれも98%浸水。他にも名古屋市中村区は92%、東京都墨田区88%など、大都市の多くで人口の大半が洪水浸水想定区域内に住んでいることがわかる。
人口減少も浸水区域増
実は、洪水浸水想定区域内の世帯数が全国で増加していることが秦准教授の調査でわかった。
秦准教授は11年度時点の洪水浸水想定区域の地図データと1995年から2015年の国勢調査結果をもとに、洪水浸水想定区域内の人口の変化も調べた。すると、同域内の人口は95年以降一貫して増え続け、20年間で4.4%増の約3540万人。特に世帯数は47都道府県全てで増え、25.2%の大幅増で、約1530万世帯になっていたのだ。
「これには驚きました。日本の人口のピークは08年で、それ以降は減少に転じているのに浸水区域内は人口も世帯数も増えているのですから」(秦准教授)
秦准教授は、浸水想定世帯数の増加は「核家族化と関係がある」と見る。核家族化によって住宅が必要となるが、古くから人が住んでいた中心市街地を再開発しようとすれば地価は高く権利関係も複雑だ。そのため、それまでは水害の危険で田畑にもならなかった場所、つまり洪水浸水想定区域が開発され家が建てられていったという。
さらに、都道府県別に20年間の世帯数の変化をみると、増加率は福岡が最も高く38.4%、次いで東京の38.2%、滋賀38.1%、神奈川35.2%の順。大河川の下流部に広がる地域に増えているという。
「問題は、多くの住民は自分たちが洪水浸水想定区域に住み、浸水リスクがあるのを知らないこと。そもそも、不動産業者に洪水浸水想定区域の説明を義務づけていなかった」
と秦准教授は指摘する。