中谷氏は活動を始めた動機について、「これまではハンコが本人確認や意志の担保の役目を果たしてきましたが、廃止してしまったらどうなってしまうんだろうという不安があった」と振り返る。「代わりになりうるのはサインでしょうが、日本の場合、そうした文化が根付いていない。そのサインが本人によるものであると特定できる制度がないのです。アメリカでサインが意志の担保として成立するのは、制度ができあがっているからです。日本の場合、サインの制度を一から設計するよりも、すでに根付いている印章を活用した方が、効率がいい」

 議連の主な活動は、印鑑の活用方法などを検討する定例の勉強会。時には政府や業界側に提言もするという。中谷氏は「議連の働きかけにより、オンライン上で法人登記する際にも印章を活用できるようになった」と成果を主張する。

「誤解されがちなのですが、私どもは、オンラインやデジタルガバメントの推進には反対していません。むしろ、今後のデジタル化の流れには乗っていきたい。印章をデジタル化の流れに乗せていくにはどうすればいいのか、議論を進めることはできるはず」

 テレワークを阻む要因としてハンコに批判が集中していることについて、中谷氏は苦言を呈する。「テレワークを進めたいならやればいいのに、経団連やマスコミは、できない理由をハンコのせいにしている。テレワークを阻害しているおおもとの原因は、ハンコではなく『紙への依存』です。紙への依存を脱却するための議論をするべきで、デジタルでも活用できるようなハンコを廃止するというのは論理的におかしい。ハンコは古いもの、というイメージが先行して、不当な扱いを受けている感じがします」

 確かに、テレワークを阻む要素は他にもある。東京商工会議所が4月8日に発表したアンケート(1333社が回答)によると、テレワークを実施・検討する際の課題として、大企業(300人以上)のうちの41・0%が「パソコンやスマホ等の機器やネットワーク環境の設備が十分ではない」と回答した。また、回答した大企業の27・7%が、「セキュリティー上の不安」も課題として挙げた。

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政府も「ハンコ不要」の見解で、業界に激震