カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など
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イラスト/カトリーヌあやこ
イラスト/カトリーヌあやこ

 漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏が、「探偵・由利麟太郎」(フジテレビ系 火曜21:00~)をウォッチした。

【ドラマ「探偵・由利麟太郎」のイラストはこちら】

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 横溝正史原作。京都を舞台に、探偵・由利麟太郎(吉川晃司)が、作家志望の青年・三津木俊助(志尊淳)と共に事件の謎を解く。

 探偵は立ち姿だ。白髪、厚い胸板、ロングコートを翻し、吉川が立っているだけでもう事件が解決したような安心感が。

「観察することで情報を得る」という由利の観察眼がはんぱない。仮装パーティーで女が毒殺された事件。

 由利は出入り口にひざまずき、コンクリートの床に触れるやいなや「ピンヒール以外の靴跡がある」。いやまっさらなコンクリだから。何も見えないから。しかしさらに断言、「犯人はここで踊った」。そんなことまでわかるんかーい。もう鑑識いらないから。

 毎回、お寺の的場でバーンと弓を引き、的の真ん中を射ぬいた瞬間、事件は解明(由利の脳内で)。でも弓を引かなくても、わりと犯人はすぐわかる。

 同じ横溝作品で石坂浩二が演じた金田一耕助シリーズの映画も、やたら存在感がある大女優が出てきた瞬間、「犯人わかっちゃったんですけど」モードが発動したものだが。本作も2話で、会員制クラブの客・井出(尾上寛之)が出てきた瞬間、もうわかっちゃった。

 だって尾上寛之だから。ドラマ「アンナチュラル」(TBS系)で、おさかなカラーボールを使った連続殺人犯を怪演した男。よほどのことがなければ、いつもだいたい犯人ね。

 横溝作品の見どころは、犯人よりもその事件が引き起こされる因果と業だ。そしてエロスとグロテスク。闇の中踊るピエロ、瓶詰の髑髏(どくろ)、切断された女の腕の刺青。全身を黒のラバーに包み、チェーンソーを振り回す男。

 そんな横溝がミゾミゾするところにひたっていると、いきなり助手・三津木がスマホを見て叫ぶ。

「ストリーミングです! 洋館から生中継が」

 もうね、いきなり引き戻されるね、現実に。探偵はフォードのクラシックカー、助手はホンダのスーパーカブで古都を走り回っているけど、時代設定は現代。

 尾上寛之も美女の部屋にカメラ仕掛けて、パソコンで動画チェックですよ。

 でもさ、やっぱり犯人は屋根裏を散歩して節穴からのぞいてほしいし、椅子の中に入り込んで、そこに座る女のぬくもりを味わってほしいんですよ。ってそれ横溝じゃなくて乱歩だよ!

週刊朝日  2020年7月17日号