落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「県境移動」。
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遅ればせながら「あつまれ どうぶつの森」(あつ森)を始めた。娘(10)の誕生日にプレゼントしたのだが、家族5人全員が自分のキャラクターを作って遊んでいる。
「あつ森」がどんなものかの説明は省いていいですかね? 始めたばかりなので、正直私もよくわかってない。今のところの印象は、『謎の秘密結社「たぬき開発」により離島に飛ばされて、多額の借金を背負わされテント生活をしながら、さまざまな手段でお金を稼いで借金返済を試みるのだが、何かにつけて負債がかさみ続ける蟻地獄』……絵柄は可愛いのだが、中身は『カイジ』な終わりのないゲーム。こんな過酷で陰惨な世界のなにが楽しいのかわからないが、子どもたちはハマっている。やらないと私だけ家族の会話に加われない。やるよね、そりゃ。
私のキャラは「ぱぱみ」という名の女の子。顔黒で銀髪オサゲ。眠そうな目の出っ歯。「ぱぱみ」はよく顔面を蜂に刺されてボコボコに腫らしている。あんなに刺されたら命に関わると思うのだが、必ず一晩経つと腫れは引いていてなかったことになっている。始めてまだ5日だが、自分で作った「ぱぱみ」には人外なものを感じる。「ぱぱみ」、恐るべし(腫れは誰でも1日で引くらしい)。
我が家には「ゲームは1日1人30分」という厳格なルールがあるのだが、「あつ森」で1日30分はあり得ないらしい。あつ森ユーザーに言わせると「そんなペースじゃなにも進まない」と。一人がプレイしている30分間、他の4人は周りで「あーだこーだ」言い続けるのだが、私のようなゲーム慣れしていないおじさんは子どもにはじれったいようだ。
釣りをしていると「竿引くの早すぎだよ!」。果物食ってると「そんなに食っても意味ないよ!」。カバに話しかけると「30分しかないのに時間がもったいないよ!」。ぼんやり歩いてると「Bボタン押せば速く走れるのに!」。うるさいな、おい。