林:それは光栄です。このごろつくづく思いますけど、70年代、80年代の角川映画が私たちの心の中でいかに大きなウェートを占めていたか。あんなにエネルギッシュで、いい時代はなかったなと思って。

角川:昭和という時代がなんで懐かしいと思えるのか。いいことばっかりではなかったけど、自分のコアになったすべての部分は昭和の時代にできたという気がする。平成、令和なんてあまりおもしろくない。昭和は平成と違ってエネルギーがあった。あのエネルギッシュさに惹かれるね。

林:ほんとにそうですよね。冒険のほうはいかがなんですか。

角川:冒険は、30年ぐらい前、サンタ・マリア号でスペインのバルセロナから神戸まで帆船で航海したけど、あれが最後。昔、パレスチナにいたんですよ。捕まって尋問される夢を見て以来、行かないことにした(笑)。

林:もう一回びっくりするような冒険をしていただきたいですよ。

角川:今は精神世界がいちばん大きな冒険になってるんじゃないかなと思う。肉体も精神もかなりギリギリに追い詰めてるので、それもあって太らないんだよね。

林:社長は今78歳で、私の友達の三枝成彰さんも78歳ですが、彼もハチャメチャで丸くならないですよ。

角川:丸くなったら終わり。とんがったところがなくなって牙が抜けたら、それは丸くなったと言わずに、衰えただけだと思うんだよね。それはダメでしょう。

林:久しぶりにお目にかかったら、社長だけは相変わらずお元気で安心しました。

■角川春樹(かどかわ・はるき)/映画監督、プロデューサー、角川春樹事務所会長兼社長、幻戯書房会長。1942年、富山県生まれ。65年、角川書店に入社し、70年以降、映画「ある愛の詩」「いちご白書」の原作本などを刊行。横溝正史の角川映画で一世を風靡した。主な作品に「犬神家の一族」「人間の証明」「悪魔が来りて笛を吹く」「金田一耕助の冒険」「戦国自衛隊」「野獣死すべし」など。最新監督作となる映画「みをつくし料理帖」が10月16日、全国公開予定。

(構成/本誌・松岡かすみ、編集協力/一木俊雄)

週刊朝日  2020年7月24日号より抜粋