林:ほォ~。
角川:どんどん攻めて攻めて、ことごとく当てていったわけ。父は次にがんになって、東京女子医大病院に入ったとき余命何カ月と言われたので、勝手に取締役会を開いて副社長になった。副社長になったということは、「次は自分が社長になるよ」という意思表示だよね。親父が「おまえ、副社長になったそうだな」と言うから、「ええ、なりましたよ。ダメですか」と言ったら、親父は絶句して「ダメだ」と言えなかったのね。
林:そうなんですか。
角川:私はとにかく小説が好きなんだよね。おもしろい小説に出会いたいという思いがあって、今年、編集者生活52年なんだけど、打率が9割なんだよ。重版したり再版したのが。
林:すごいです。誰もやらないことをやって、それがガンガン成功して、メチャクチャ楽しかったんじゃないですか。
角川:いや、私はぜんぜん達成感がなかったよ。
林:えっ! だって記録をどんどん塗り替えていったじゃないですか。観客動員数とか興行収入とか。
角川:だけれども、自分の中では計算どおりという感じで、どれ一つとっても自分の計算外ではなかった。あのころ「GORO」という雑誌があって、そこで沢木耕太郎と対談したんだよ。そのときは映画の「犬神家の一族」が大ヒットしてたんだけど、沢木から「角川さん、成功者なのに暗い顔してますね」って言われた。要するに自分の中では達成感がなかったんだよね。
林:そういうものなんですか。たとえば「天と地と」(90年)みたいに、誰もやらない大きなことをやるというときに、キャストを誰にするか考えたり、いろんな折衝とかするのは楽しいんじゃないですか?
角川:川中島の合戦のシーンを絵巻物のように撮りたいと思ったんだ。その前に黒澤明の「影武者」(80年)というのがあって、あれがおそろしくつまんなくて、合戦シーンがない話は絵巻になってないなと思った。自分だったらどう美しく合戦シーンを撮るかということだけに集中したんだ。
林:最近知りましたが、社長は黒澤監督にかなり嫌われてたんですね。握手を求めたら無視されたんでしょう?
角川:そう。「影武者」のプレミアム試写会で握手を求めたら無視された。それから黒澤嫌いになった。
林:でも、わかるような気がします。今のホリエモンを見てると、40年前の角川社長ってこんな感じだったよなと思いますよ。今までの既成の価値観が大嫌いで、新しいことをガンガンやっていくという感じが。
角川:うん、うん。