6、ふさわしくない系
たとえば「Music makes me high」。音楽を聴くと気分が上がるという意味ですが、highにはドラッグを使ってハイになるという隠喩もありますから、子ども服にはふさわしくないのでは。他にも「intoxicate」など、お酒やドラッグに関する単語が子ども服に使われていました。
もっと許せないのが、「Kiss my juicy lips(私のプルプル唇にキスして)」とか(juicyはスラングでセクシーのような意味も)、「Make me feel good(私を気持ちよくして)」などの性的表現です。在外邦人のかた、日々英語を使いこなしているかたにとっては信じがたいかもしれませんが、ほんとうにこういうフレーズがついた子ども服が日本に売っていて、あどけない子どもたちが着ているんです。1~5のたどたどしい英文を作ったのと同じメーカーが作っているとは思えない、不自然なナチュラル英文。故意なのか、それとも大人向けの歌や映画からそれらしいフレーズを考えなしに借用しているのでしょうか。
これら6種類のありえない英文を見て感じるのは、ことばが軽視されているという事実です。英語が、アルファベットが、単なる柄としか見られていない。だからよく意味を調べもせずにそれらしい単語を並べて、時には文章をぶった切って、デザインとして扱っているんでしょう。でもその適当に配置された文字たちは、この世界の約15億人が使っている、意味あることばなんです。
昔は、日本の中だけで日本的な英文を消費していればよかったのかもしれません。しかしこのグローバル&ネット社会、奇妙なジャパングリッシュは外国人観光客に写真を撮られ、SNSで拡散され、笑いものにされます。オンラインストアの服なんて、世界中の人たちが今すぐ目にすることができます。実際わたしも、ここに挙げたヘンテコ英文の大半はオンラインストアで見つけました。繰り返しになりますが、子ども服は子どもが着るものです。はしたないフレーズを笑われるのは、着ている子ども。子どものためにしっかりことばと向き合って、翻訳者や校正者を介するなどしてデザインしていただけないかと、いち母親として強く願います。
◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。海外書き人クラブ会員。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi
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