その上で、さあやってみようと、プールでトップ選手のスタートをまねさせてみます。自分のスタートとどこが違うのか。違和感を感じたら、それが変わっていくきっかけになります。
練習の中で細かい動作までシビアに改善していくことも重要ですが、ものごとをダイナミックに変えたいときには、その選手の泳ぎやスタートの技術とはまったく違う別の選手のまねをするのも、試してみる価値があると思います。
先日は背泳ぎのスタートを練習しました。00年シドニー五輪女子100メートル背泳ぎ銀メダルの中村真衣や寺川らトップスイマーのスタートの映像を見てから、みんなでまねをしました。
マネジャーがiPadで撮影した動画をプールサイドで確認しながら、繰り返し練習します。股関節を素早く後ろに倒すことができる寺川のスタートの動きを萩野公介がうまく再現して、盛り上がりました。
トップスイマーの形態模写がうまい選手は、遊び心があるようです。最初はうまくいかなくても、笑いながら何度もトライしていきます。失敗を恐れず前向きに取り組んでいると、動きが変わっていくのです。
新型コロナウイルスの感染拡大防止のために教育現場でオンライン授業が取り入れられています。パソコンやスマホで動画が見られる環境は今後さらに整備されていくでしょう。水泳の部活動でもYouTubeなどで世界のトップスイマーの動画を見ることで、楽しみながら技術の向上につながるはずです。
平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数
(構成/本誌・堀井正明)
※週刊朝日 2020年7月31日号