■年齢や体力などを考慮して選択

 手術なら、破裂のおそれがある瘤を取り除くことになり、人工血管も半永久的に使用できる。しかし、胸部を大きく切開したり、手術中は一時的に心臓を止めたりするため、患者のからだへの負担は大きくなりがちである。

 これに対してステントグラフト内挿術の特徴を志水医師は次のように話す。

「何より、カテーテルを入れるためのわずかな切開ですみ、患者さんのからだへの負担を軽くできます。その分、手術の安全性が高まり、死亡危険度は非常に低くなっています」

 ただし、破裂のおそれがある瘤を残すことになるため、万一、ステントグラフトと血管との間にすき間ができ、血液がすき間に入り込んでしまうと、瘤に血液が流入し、瘤を膨らませてしまうことになる。

 この血液の“もれ”が起こるのは数%程度だが、そのチェックなどのために、治療後も半年~1年に1回、CT検査などを受けることになっている。もれが見つかれば、追加でカテーテル治療をおこなったり、場合によっては手術に切り替えて対応する。

 また、ステントグラフト内挿術は実用開始からまだ十数年しか経っておらず、耐用年数や、留置した場合に治療効果がどれくらい継続するのかの検証はこれからの部分がある。

 以上の特徴を基準にすると、体力があり、人工血管を長く使うことになる若年者などには手術、体力に不安がある高齢者などはステントグラフト内挿術が選択されるケースが多い。

 治療法選択の他のポイントは「瘤の位置」である。ステントグラフトと血管の間にすき間をつくらないように、血管に十分に密着させるには、瘤ができている上下に十分な長さの健康な血管が必要である。

 志水医師はこう話す。

「血管に密着させるための瘤までの健康な血管の長さは1・5~2センチ、場合によっては2・5センチ以上という基準があります。密着させるための長さを確保しやすい下行大動脈の瘤にはステントグラフト内挿術、確保しづらい上行大動脈や弓部大動脈の瘤には手術、といった選択の仕方もあります。実際に下行大動脈の瘤に対しては、約3分の2の症例がステントグラフト内挿術とのデータがあります」

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