鼻血がいいか、痛風がいいか──。わたしは決断して、コルヒチンを服まないことにした。代わりにペットボトルのお茶をそばにおいて、がぶ飲みする。一日に四リットルが目標だが、けっこう辛い。それでも三日にわたってペットボトル五本を空にすると、アキレス腱の痛みがひき、週末のテニスもできた。
わたしが参加している“ご近所テニス同好会”は四十年ほど前に組織され、最盛期の会員は五十人もいた。女子ダブルス、男子ダブルス、ミックスダブルス、男子シングルス、チーム対抗戦と、年間に五つもの大会を開催し、入賞者には名前を刻んだメダルが贈られた。打ち上げの飲み会、カラオケ大会、グァムやハワイでの遠征試合と、地域活動としてはかなり盛況で、楽しい日々をすごしたのだが、寄る年波で、ひとり欠け、ふたり欠けとなり、いまは大会をしても二十人がやっとという状況だ。
リタイアしたひとを思い浮かべると、その多くは小肥(こぶと)り、または肥満体だった。大相撲の力士ではないが、みんな例外なく膝(ひざ)を痛めてテニスをやめた(いま、幕内力士のほぼ半数は膝にサポーターをしている)。ことほどさように肥満は膝にわるい。過剰な脂肪は内臓にもわるい。
わたしは人間ドックでメタボだといわれた。これで膝を痛めればテニスができなくなり、もっとメタボになる。明日から、よめはんとウォーキングをしよう。
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する
※週刊朝日 2020年8月14日‐21日合併号