対本さんは、そもそも仏教は生老病死の苦しみから人々を救うところに原点があったと言います。その生老病死が凝縮している場所は病院。しかし、僧衣では病院に入ることができない。だから、医師になって白衣をまとって生老病死の現場に入ろうとしました。あくまで生老病死の苦しみから人々を救うという僧侶の使命が基本にあります。
ですから対本さんにとって、医療が命に向き合うものであるのは当然のことなのです。
「現代西洋医学は、患者さんの救命には全力を尽くしますが、死にゆくプロセス、死んだあとの<いのち>の行方についてはほとんど無関心です。科学的な検証ができないためですが、本来はそこまで踏み込んでいかなければ、死の本質、ひいては<いのち>の本質は見えてこないのではないでしょうか」(『人生の最期に求めるものは 僧衣と白衣の狭間で見えてきたこと』佼成出版社)と対本さんは語ります。
人はどうやって死んでいくのか、死んだらどうなるのか、死の過程で心身に何が起こっているのか、死にゆく仕組みを検討したいというのです。
対本さんは最期まで命に寄り添う医療を目指しています。それは僧医でなくても、すべての医師が求められることです。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2020年8月14‐21日号
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