また、子どもの引きこもり、老親の介護という問題を同時に抱えていたというケースも、少なくない。
そうした心身の負担が重くのしかかる母親たちをされに苦しめるのは、「理解のない周囲の人たち」の存在だ。例えば、最も多いのが、義母、義父といった夫の親族。
「母親なのに、こうなるまでどうして放っておいたのか」
「なぜ外に出さないんだ」
「まだ働かないのか」
などと母親を責め、圧力をかけてくる。なかには「うちの血筋には(引きこもりは)いないわよ」と言われ、深く傷ついたという人もいた。
本来なら味方になってくれるはずの夫でさえ、ときには敵になる。「育て方が悪い」「自分は仕事で忙しいから、家のことは任せておいたはず」などと妻を責めるだけで、何もしてくれなかったというケースもあった。
気心が知れた仲だと思っていた女友だちも、必ずしも味方というわけではない。思い切って事情を打ち明けたところ、無知やデリカシーのなさから無神経な言葉が返ってきて、「話さなければよかった」と後悔したという人も多かった。
■ 10年ぶりに家族の前に姿を現した息子
前述のMさんの息子は、33歳のとき、支援団体のサポートによって、ようやく外に出ることができた。
「こんな顔してたっけ、としげしげと見てしまいましたね」(Mさん)
10年ぶりに部屋から出てきた息子の姿を見て、Mさんは「よく出てきてくれたな」と胸が詰まったという。
この支援団体が行ったのは「アウトリーチ型」サポートという方法だ。支援を必要とする当事者や家族が相談窓口に行くのではなく、支援する第三者が個別に家庭を訪問し、当事者と家族に合ったサポートを提供するというものだ。
Mさんの場合、支援団体のスタッフが、Mさんの家を訪ね、息子に「ここを出て、一人暮らしを始めよう。私たちが見守ってあげるから安心して」と話しかけ、説得してくれた。Mさん夫婦もアドバイスを受け、支援団体の事務所の近くに息子のための部屋を借り、家財道具をそろえた。