現在44歳の息子は、1人暮らしをしながら正社員として働いている。上司から有給休暇を促されない限り、自分から仕事を休むことは一日もないそうだ。最近では、しばしば実家にも帰ってくるようになった。両親が旅行に行くときはおこづかいをくれたり、母の日には花やケーキを買ってきてくれたりするという。
引きこもり支援の流れは、今までの「家族を中心に見守る」という姿勢から、「第三者が訪問し、生活を変えるために手を差し伸べる」という積極的な方針へと、少しずつ舵を切り始めている。今年になって、引きこもりや精神疾患がある人たちの訪問支援=「アウトリーチ」に取り組む全国の団体により、「コミュニティーメンタルヘルス・アウトリーチ協会」も設立された。
■ 母親は何をすべきなのか
取材を進めていくうち、「親にできることは限界がある」という言葉に、何度も突き当たった。引きこもりから脱した当事者は、「両親のことを気にしなくていいので、精神的に楽になった」と語る。
サポートする支援団体のスタッフからは、こんな声があった。
「親子だと距離が近すぎるので、互いに感情的になりがち」
「お母さんは、黙って見守るのが苦手。常に先回りしてしまい、『待つ』ことをしない状況で、自立の芽を摘んでいる場合が多い」
「お母さんが子離れできない場合も多い。親がちゃんと子どもを突き放せないと、子どもは自立できない」
親が口を出し過ぎたせいで関係がこじれてしまい、問題が長期化するケースも多いという。関係が悪化した結果、家庭内暴力に発展する可能性もある。自分たちだけで解決しようとせず、積極的に第三者のサポートに頼ることが解決への近道といえるだろう。
また、引きこもりから脱することができても、すぐに働き始められるケースは少ない。引きこもりの期間が長いほど、社会復帰をするまでに時間がかかるのだ。まずは、安心して過ごせる居場所と、継続した見守りが必要になる。そこまで責任をもってサポートしてくれる団体をみつけることもポイントだ。
「引きこもった子どもにとって必要なのは、干渉ではなく安心感」(サポート団体代表Hさん)。
母親の仕事は、黙って見守ること。その代わり、「いつでも話を聴くよ、ピンチになったときは言ってね」と伝え、相談されたらいつでも受け入れる。これはすべての親にとって必要な姿勢といえるだろう。
<筆者プロフィル>
臼井美伸(うすい・みのぶ)/1965年長崎県佐世保市出身。津田塾大学英文学科卒業。出版社にて生活情報誌の編集を経験したのち、独立。実用書の編集や執筆を手掛けるかたわら、ライフワークとして、家族関係や女性の生き方についての取材を続けている。株式会社ペンギン企画室代表。http://40s-style-magazine.com
『「大人の引きこもり」見えない子どもと暮らす母親たち』(育鵬社)
https://www.amazon.co.jp/dp/4594085687/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_fJ-iFbNRFF3CW