◆2週間の滞在で女の子を授かる◆
それでも、
「ダメだった場合も覚悟している。でも試さずにあきらめるのは嫌だ」
と、説得し続けたところ、しぶしぶではあるが協力してくれることになった。ただ、両親には言えなかったという。
インターネットで現地の病院を紹介してくれるサポート会社とコンタクトを取り、2007年の2月、夫と子どもとともにタイの首都バンコクへ渡った。
2週間の滞在は、治療と手術の連続だった。卵子を強くする薬や排卵をコントロールする注射をこれでもかと打ち、卵子を採取。採取した夫の精子を使って体外受精させた後、女の子になるXX染色体の受精卵から健康なモノを二つ選び、体内に入れる。
慣れない外国で受ける治療は楽ではなかったが、不思議と気持ちは軽かったというAさん。
「いちばん驚いたのは、日本ではなんとなく公の場では話しづらい不妊治療や産み分けについて、みんなが大声で話をしていたことです。タイに行くまでは『私はなんてぜいたくな悩みを持っているのだろう』という後ろめたさを感じていたのですが、通訳の方や日本人の奥様までもが『次は男の子を産む予定なのよ』とか『今日は卵子を採りに来たの』と、堂々と話していて、本当にびっくりしました。日本では見ず知らずの人に、自分が受けている不妊治療の話など絶対にしませんからね」
幸運なことにAさんは、日本に戻ってほどなくして妊娠が判明。08年の冬、めでたく女の子を出産した。
ただ、これはあくまで成功例にすぎない。
タイの医療に関する情報提供と予約代行業務を手がけるジェイ・ウェッブ・クリエーションの横須賀武彦さんはこう話す。
「男女は着床前診断で100%見分けることは可能です。しかし、その受精卵が100%着床する保証はありません。不妊治療の場合になると、成功率は35%前後に下がる。この数字を見ると、業者があおる広告や宣伝文句のイメージと現実には差があることが分かります。第三者からの卵子・精子提供や体外受精はあくまで医療なんです。自分の価値観に合った治療を受けるためには、さまざまなデメリットを承知した上で自己の責任で選択することが重要です」
横須賀さんはタイの医療を紹介するため04年にバンコクで会社を設立。以来、同社が管理するインターネットサイト「タイランド美容&医療情報センター」などで性転換手術を始めとする幅広い医療技術の情報を伝え、タイで治療を受けたいと願う日本人をサポートしてきた。