「23歳のときに結婚をして、3人の男の子を授かりました。でも私はどうしても女の子が欲しかったんです。男、男ときて、次は女の子を作ろうと、『女の子を授かりやすくなる』という薬を買ったり、『女の子ができやすい体位』なんかを試したりしました。それでも結局、34歳のときに授かったのは男の子。だからといってがっかりしたわけではありませんが、『こんどこそ女の子を』と意気込んでいたので、いっそう欲しいという気持ちが強まりました」

 ある日、Aさんは子どもの出産で世話になった産婦人科医にその気持ちをうち明けた。

 するとこんな答えが返ってきたという。

「海外で産み分けを試すという方法がある。40代になると妊娠能力が低下するから、本気でやるなら今から始めたほうがいいですよ」

 海外で男女の産み分けができるということは知っていたが、踏み切る勇気はなかった。しかし、現役の医師の口から聞かされたことで、俄然やる気が出た。そのときの年齢は37歳。正直、焦っていた。

 最初に浮かんだのは、卵子提供や代理出産を合法的に行えるアメリカだった。カリフォルニア州などでは、男女を産み分ける目的での着床前診断も認められている。

 着床前診断とは、体外受精させた受精卵を子宮に入れる前に遺伝病や染色体異常を調べる方法だ。流産を予防するほか、不妊治療にも用いられる。妊娠前に健康な受精卵を選別するので、希望の性別の受精卵を選び出せば男女も産み分けられるというわけだ。

 日本では染色体異常の可能性がある場合などに限られ、産み分けを目的とした検査は認められていない。

「アメリカ行きも考えたのですが、予算を調べると600万円ほどかかってしまう。それだと主人も認めてくれないだろうと思い、いろいろ調べた揚げ句、アメリカの3分の1ほどの費用で治療を受けられるタイに行こうと決めました」

 夫の理解を得るのはたやすいことではなかった。

 タイに行きたいと告げると、夫は、
「何、馬鹿なこと言ってるんだ。そもそも3人の子どもの面倒はどうするんだ。お前はワガママすぎるぞ」
 と、腹を立てた。

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