加えて、この映画にはニューポートの灯台から南南東約14キロの地点で開催されていた「アメリカ杯」の様子も挿入されている。伝統的な国際ヨットレースの模様は、ニューポートが豊かな保養地であることを改めて伝え、真夏の暑い盛りに観ると体感温度も下がりそうではある。とはいえ、この日のジャズ演奏と直接的には関係ない。映画序盤にインタビュアーが、「(聴きに来たけれど)ジャズってあまり好きじゃないの」などと答える女性の声を拾っているように、ややうがった見方をするならば、まさに真夏にジャズを味わう“気分”が味わえる、最高にお瀟洒な映像作品と言える。
演奏自体はどれも素晴らしい。54年にスタートした「ニューポート・ジャズ・フェスティバル」には、これまでにマイルス・デイヴィスやデューク・エリントンらによる多くの名演が残されている。また、57年のビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルド、カーメン・マクレエのパフォーマンスもレコードで発表された。映画となった58年も、ロックンロールの創始者の一人であるチャック・ベリーが出演。この年に全米2位のヒットとなった「スウィート・リトル・シックスティーン」を聴かせる場面は、中盤のハイライトだろう。また、最終盤に登場するマヘリア・ジャクソンはゴスペルの女王らしい貫禄のステージを観せてくれる。そういえば、アメリカではそのマヘリアの伝記映画も制作されているようだ。音楽ファンとしては演奏シーンがもっと盛り込まれた作品として観たかったと感じる。だが、あくまで50年代のアメリカの一部の富裕層による避暑のムードがリアルに切り取られている作品として向き合うことをおすすめしたい。
現在も毎夏、この地で開催され、やはりジャズを気軽に楽しもうとする若者たちが集まる「ニューポート・ジャズ・フェスティバル」。それは変わらぬ伝統となっている。しかし、この作品に登場するレジェンドたちへの敬意をベースにしつつも、ジャズ自体は特に2000年代以降、いろいろなジャンルとクロスオーバーしながら更新されている。様々な差別や格差と闘いながら進化の歩みを止めないジャズが、世界的に見ても今もなお、刺激的な音楽であるという事実を考えさせられた。(文/岡村詩野)
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