感染を恐れて病院の受診を控える母親が増えている。医師たちは子どもの予防接種の遅れや親子の孤立を懸念する。AERA 2020年8月24日号から。
* * *
都内のPR会社で広報を務める小嶋麻衣子さん(40代)は、今年の1月以降、長男(2)を受診させていない。新型コロナウイルスの流行以来、外出を控えるようになったからか、長男が風邪を引かなくなったからだ。
「保育園は5月下旬まで、スイミングは今もお休みしています。だから感染しないのかも」
外出自粛期間中のある日、長男が微熱を出したときも、市販薬を飲ませて様子を見たら、じきに熱が下がった。
「どこでコロナがうつるかわからない。小児科に行くと、子どもは待合室のおもちゃで遊びたがるし、風邪の子も来るし、何かと心配です」(小嶋さん)
親たちの懸念は小児科の受診数に表れている。日本医師会の調査によると、今年3~5月の診療所の診療報酬の総点数は、小児科は前年同期比約36%減と全診療科で最も顕著だ。
緊急事態宣言が解除された翌日の5月26日、東京都文京区の細部小児科クリニックでは、予防接種以外の患者がついにゼロになった。細部千晴院長(57)は「開業して12年、こんなことは初めてです」と話した。
小児科は子どもへの予防接種も行う。すでに「感染が怖い」「外出自粛をした」として、予防接種を延期した保護者は33%に上るとする調査(NPO法人「VPDを知って、子どもを守ろうの会」)もある。東京都台東区のどうかん山こどもクリニックの森戸やすみ医師は言う。
「必要な時期に必要な予防接種を受けられなくなると、病気にかかる危険が上がります」
百日咳は赤ちゃんがかかると重症化する恐れがあり、4種混合ワクチンは生後3カ月になったらすぐに接種するのが望ましい。ロタウイルス胃腸炎のワクチンは、安全性の面から、初回は生後6カ月までしか飲めない。
小児科を受診する意義は、病気や予防接種だけではない。