中でも、演出として特筆すべき点は、志村さんを演じていた役者の顔をはっきり映さなかったことだ。志村さん役の人物の顔全体を捉えたショットはほぼなく、目元や口元のアップを映すだけにとどめていた。これは、見る側が生前の志村さんを想像する余地を残す心憎い演出だった。

『24時間テレビ』は、偽善的な内容や商業主義であることなどからネット上では何かと批判されることが多い。だが、志村さんの追悼ドラマはよくできていたし、与えられた条件の中での最適解ではあった。

 何よりも、ドラマを通して制作者がこの偉大な人物を亡くしたという事実に真摯に向き合っていたことが伝わってきた。「追悼する」とは本来そういうことなのだろう。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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