8月28日、辞任の意向を固めた安倍晋三首相。会見では、持病の潰瘍性大腸炎の悪化の兆候があると明かした。この病気は、発症からどんな経過をたどるのか。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2016』から抜粋して紹介する。
【データ】かかりやすい年代や性別の違いは?潰瘍性大腸炎の情報こちら
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炎症性腸疾患は、小腸や大腸の粘膜に炎症が起こる慢性疾患だ。おもなものに潰瘍性大腸炎とクローン病がある。患者の多くは下痢や腹痛を訴え、症状が治まる「寛解」と、またぶり返す「再燃」を繰り返す。原因は不明だが、免疫機能や腸内細菌などが関与していることがわかっている。
千葉県在住の会社員、堂内保彦さん(仮名・44歳)は3年前、腹痛と下痢が2、3日続いたあと、血便が出た。近くの消化器内科クリニックで大腸内視鏡検査を受けたところ、潰瘍性大腸炎と診断された。
潰瘍性大腸炎は、下痢や血便、腹痛などを起こす大腸の炎症だ。以前は20代、30代での発症が多かったが、最近は20~50代と発症年齢の幅が広がっているという。
直腸から発症することが多く、粘膜の炎症は表面的だが、腸管内をぐるりと一周し(全周性)、連続して腸の奥のほうに広がっていく(イラスト参照)。
堂内さんの炎症はそれほどひどくなかったため、抗炎症作用のある内服薬メサラジン製剤で症状は治まった。その後、仕事が忙しく服薬を忘れる日が増えてきた。約1年後、再び激しい下痢にみまわれたため、担当医は、より専門的な治療を受けられる東邦大学医療センター佐倉病院を紹介した。
堂内さんを診た同院消化器センター教授の鈴木康夫医師は、次のように話す。
「潰瘍性大腸炎は軽症や中等症の場合、多くはメサラジン製剤を用いた治療で症状が治まります。しかし、症状がなくなっても粘膜の炎症が治癒していないと、再燃してしまうのです」
近年は、症状を治すのではなく、炎症を治すことが治療の目標になっているという。
中等症~重症に対する治療は、内服や点滴によるステロイド薬の処方で、それでも効果がない場合、▽血球成分除去療法▽分子標的薬である抗TNFα抗体製剤▽免疫抑制剤のタクロリムスなどの治療が検討される。最終手段として、大腸を全摘する手術がある。
鈴木医師は強い抗炎症作用をもつステロイド薬(内服)を処方した。一時はよくなったが、3カ月後に症状が再燃。次に血球成分除去療法を試みた。これは血液をいったん体外に出して、炎症を引き起こしていると考えられる過剰に活性化した白血球を血液から取り除き、正常化して再び体内に戻す方法だ。