それでも効果がみられなかったため、2010年に潰瘍性大腸炎にも保険適用になった抗TNFα抗体製剤を用いることにした。

 TNFαは感染防御や抗腫瘍作用をもつ体内にある物質だが、過剰になると炎症を引き起こす。炎症性腸疾患にも関与していることがわかっている。分子標的薬である抗TNFα抗体製剤は、活性化したTNFαを抑える働きがある。

 鈴木医師は堂内さんに、抗TNFα抗体製剤のインフリキシマブを用いた。約2時間の点滴で、2週、6週と投与の間隔をあけていき、効果がある場合はその後、8週間ごとに点滴する。堂内さんはこの薬が効果を上げた。現在も寛解を保ち、大腸の粘膜もきれいな状態が続いているという。普通に仕事を続けながら、8週間ごとに通院している。

 かつてはメサラジン製剤で寛解を図り、悪化したら入院してステロイド薬を使うというのが一般的な治療で、患者は仕事や生活に支障をきたすことも少なくなかった。しかし抗TNFα抗体製剤が使えるようになってからは、メサラジン製剤との組み合わせで、症状を抑えやすくなり、患者のQOLは向上しているという。13年にはアダリムマブという皮下注射型の抗TNFα抗体製剤も潰瘍性大腸炎に適用になった。

 抗TNFα抗体製剤は潰瘍性大腸炎患者の約4割によく効き、約3割に効果がみられるが、残りの約3割は効果がみられない。効果がない場合は、タクロリムスという内服薬の免疫抑制剤を使う。

「病状に合わせて徐々に強い治療法にしていくのが原則ですが、症状が激しい場合には最初から抗TNFα抗体製剤やタクロリムスで症状を抑える場合もあります。患者さんの状態によって、適時、適切な治療を提供します」(鈴木医師)

 潰瘍性大腸炎は発症から8~10年すると大腸がんを起こすリスクが徐々に高くなるといわれている。しかし寛解が維持されれば、リスクは低く抑えられるという。(別所文)

※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2016』から抜粋

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